営業メールで自分語りをはじめる主婦
ようやくすべての応募資格を満たす人からのメールが届いた。40歳の現役マニュアルライターで、経歴書や過去の作品もきちんと添付してあった。
なかなかユニークな人らしく、メールにはいきなりこんなことが書いてあった。
「私が今回応募しました理由は、『この仕事をやってみたい』、この一言につきます」
ここでちょっとずっこけた。たしかにそれはそうなんだろうけど。
「在宅で仕事をするのは、主婦の家事の合間にとか片手間にとか暇つぶしの一種のように言われますが、私は決してそんなつもりはありません」
いいぞいいぞ。立派な心構えだ。
「マニュアル制作を始めた当初は意味がないように思いましたが、自分なりに読者に読んでもらえる表現方法などを工夫していくうちに、マニュアル制作に夢中になっていきました」
現在の仕事を始めるまでのいきさつが書いてある。別に個人の事情はどうでもいいんですけど。これからお願いする仕事をきちんとできるのか、その実力があるのかどうかがわかればいい。
だがメールはまだまだ続く。経歴書は添付されているのでそんなに書くことがあるとも思えないが、とにかく長いのだ。
「頭のどこかで『これでいいの?』と言う声が聞こえます。現状に満足できない主婦のナントカ症候群かしらと何度も悩みました。もっといろんなことに挑戦したい。私だってまだ若いんだもん...」
とうとう自分語りを始めたよ、この人。どうしたもんかなあ。
メールの最後にはこう書いてあった。
「私は書くことが好きという事が原点にあります」
それはよーくわかった。なんだか前のめりな感じのする人だけど、仕事は責任持ってやってくれそうなので、ひとつお願いしてみようか。
私はその日のうちに返事を書いた。
「このたびはご応募いただきありがとうございます。経歴、作品を拝見し、是非とも○○さんにご協力いただきたく思っております。今回のお仕事の詳細は以下の通りです......」
彼女からは次の日返事が届いた。
「誠に申し訳ございませんが今回の執筆はできません。現在2つの仕事を同時に抱えているためとりかかることができません」
じゃあなんで応募したの? 最後までユニークな人なのだった。
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