やっぱり私には書けません

モノ書きに憧れる人は少なくないらしい。しかし「なりたい」「やりたい」だけで通用するほど世間は甘くない。引き受けたのはいいが、結局ロクな原稿が書けずに逃げ出すSOHOのなんと多いことか。

たとえば書籍の執筆を頼んだときのことだ。

相手はA県在住の35歳SOHO。まだ就学前の子供を持つ主婦だが、夜中に資料を送って明け方原稿をアップするような厳しい仕事も文句ひとつ言わずにやる人だった。

本人にやる気があるなら一冊丸ごと書かせてみよう。そう思い、メールで打診してみた。

「著者として名前が出る仕事です。ちょっと大変かもしれませんが、実績を積むいいチャンスだと思いますよ」

彼女からは早速返事が来た。是非やらせて欲しいと言う。それではと内容を説明し、構成案を作成してもらった。

構成案は書籍の設計図にあたる。書籍の内容や読者層に合わせて、全体をいくつの章に分けるか、章のテーマは何か、それらをどういう順番にするかなどを決めるものだ。構成案を作成するということは、その書籍の作成にあたり陣頭指揮を取るのと同義である。

構成案ができたところで、早速執筆に取りかかってもらった。できた部分から少しずつ送ってください。そうお願いしたところ、1週間ほどして1章分の原稿が送られてきた。そしてメールにはなんとこう書いてあった。

「私が執筆するのはこの章だけでよろしいのですね」

ちょっと待って。一冊丸ごとやるって言ったよね? だから構成案も作ったんだよね?

しかし彼女はシラを切り続けた。
「私が担当するのは一部分だけと思っていました」
 
つまり、書いてはみたものの、その大変さに一冊書き上げる自信がなくなったのだろう。だからはじめからそんな約束ではなかった、と契約そのものを無かったことにしたいのだろう。素直にできませんと謝るならまだしも、話が違うとゴネる態度にこちらも黙ってはいられなかった。

「一冊丸ごととお願いしてあるはずです。メールにもきちんと残っています。構成案まで作成していただいたのはそのためですよね。今更できないとはどういうことですか」

彼女はあくまでも自分はそう思わなかった、との言い分を変えなかった。
 
それ以上はできないと言い張るので、しかたなく残りはこちらで引き取った。
しかし、送られてきた原稿の手直しを求めたところ、それも「私にはできません」と断ってきた。結局、彼女は1ページも満足には書かなかったわけだ。
 
「是非やらせてください」
それ以来、SOHOのこの言葉は信用しないことにしている。

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