SOHOなら原稿を書かなくても「著書実績」か?

街角の書店は、今やPC関連だけでひとつのコーナーが作られている。

パソコン本は、今や出版業界でも侮れない市場に成長したということだろう。そこに陳列されている書籍やムックの多くは、OSやアプリケーションソフトの機能とインターフェイスを、画面キャプチャ付きで紹介する「図解マニュアル」である。弊社でもそうした出版物の制作を請け負うことがあるが、パソコン本制作をめぐるトラ
ブルも少なくない。

たとえば、あるグラフィックソフトの図解マニュアル執筆に応募してきた30代後半の女性(これも自称SOHO)には、「一杯食わされた」という思いが残っている。

その人(自称SOHO)は、「過去の実績」といって3冊の著書を持参してきた。なるほど、それを見ると、どれもその人が著者として名を連ねている。ただ、いずれも共著だった。

「どのくらい書いたのですか?」と尋ねても
「全編に渡ってお互い協力して書いた」としか説明しない。

その人(自称SOHO)がどのくらい書いたかはわからないが、書籍なら1冊で256頁、ムックなら160頁のボリュームなら、数十頁は書いていると普通は考えてしまう。制作期間や印税、制作手順などを聞いても辻褄が合うので、「名前貸し」ではなく、著者がその人というのは嘘ではなさそうだった。書籍の出版なら著者に著作権があるものだから、編集者が手を入れたとしても一部であり、基本は著者が書いているはずだ。私はその人を信用して、執筆をお願いすることにした。

ところが、書かせてみると、文章は「メチャクチャ」という表現を使わざるを得ないシロモノだった。主述が符合せず、「です、ます」と「である」が混用されている。文章中には、まるで日記でも書いているような話し言葉が遠慮会釈なく使われ、リードがなかったり論理レイアウト(章立てなど)が整えられていなかったりと、彼女の仕事(自称SOHO)は全く商品として使うことができなかった。

図解マニュアルには必須の、文章とともに使うパソコンの画面キャプチャもつながりがおかしい。たとえば、手順を説明するのにそれぞれのイベントの前後の画面も掲載するが、その画面のデスクトップの色が途中で変わっている。おそらくキャプチャし直したのだろうが、同じ環境で統一するのはあったりまえのことである。

ことほどさように、駄作というよりも、そもそもこの仕事をしたことがないとしか推測できない「シロウトのような至らなさ」が随所に目立った。私は途中で朱を入れる気もなくなり、改めて仕事の経験を問いただした。彼女も自分の限界を悟ったのか、何と、こう白状したのだ。

「著作としてお見せした本は作例だけを作り、文章は共著者が担当しました」

ワープロにしても表計算にしても画像レタッチにしても、アプリケーションソフトの図解マニュアルは、作例を完成する手順を見せていくことで機能やインターフェイスを紹介する構成になっている。彼女(自称SOHO)はその作例「だけ」を「全編に渡って」作ったというのだ。そりゃ、著者として名前が出ても「嘘」とは言い切れないし、「全編に渡って」作品には関わっていることになるだろうけど、せめて「文章は書いてません」と正直に言うべきではないのか。それに対して、彼女は開き直ったようにこう言った。

「本当は言おうと思ったんですけど、どうしてもこの仕事がやりたかったので、言いそびれたというか、何か曖昧にしたままにしたかったんです。私がいけないことしましたか? だいたいフリーを使うのなら、このくらいのリスクは当然でしょう」

そうだろうか。こうしたSOHOを巡るトラブルについては、十把一絡げに、すべて「未熟なSOHOを雇った方にも責任がある」という言い方をする人がいる。しかし、このような誇大宣伝によるトラブルは、誇大宣伝それ自体に問題があることは議論するまでもないことだ。

いくら仕事をしたいからといって、こういう「ホラ吹き」は結局誰のためにもならず何も生み出さないだろう。「仕事をしたい」という情熱と、「今、何ができるか」というスキルは別の話だ。何をどこまでできるか、それを正直に申告した上で、こちらの判断で使えると判断した仕事に起用する。もちろん、それでもうまくいくかどうかはわからないが、たとえうまくいかなくても、そのときこそ雇う側が責任を感じればいいことだ。

仕事は、双方の信頼関係によって成り立っている。SOHOだろうが例外はない。仕事を発注する信頼に応えられるスキルと責任感が欠落しているのは、雇う側ではなく、もっぱらSOHOの側の問題である。


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