SOHOさん、派遣だけやってなよ......
やはりパソコンの「図解マニュアル」で、急ぎの仕事があった。
短期間で作らなければならなかったので何人かに分担してお願いすることにしたが、そのうちの1人が「SOHO」を名乗る30代前半の主婦だった。東京近郊にある国立大学を出て、それなりに名前の通った会社で勤務したことになっている。
いくら名門大学や大会社に入ったことがあるといっても、それだけでスキルは保証できない。しかし、少なくとも一定期間きちんとおつとめをしていないと、社会人としての常識を身につける機会がないのではないか、ということは考えられるので、職歴はほんの少しだけ参考にさせてもらった。しかし、それも結局は決め手にはならないということをこの人で思い知らされた。
仕事を受けてから1週間もたたないうちに、彼女(自称SOHO)の自宅にかけても連絡が取れなくなってしまった。携帯電話でたまにつながってもすぐに切られてしまい、折り返し向こうからかかってくる電話は、どこかのオフィスや移動中のようである。原稿も約束の期日を大幅に遅れる。そして内容もまずい。もともとシロウト原稿である上に、何度同じ注意をしても誤りが直らない。力もない上に、そうした外出先からのやりとりできちんと内容を把握できなかった面もあるのではないか。結局、当初予定していた半分も発注できなくなってしまった。
それでいて、集金ばかり手際がよい。約束の支払日前から連絡を入れてくる。連絡が取れなくなって原稿が遅れたのは、途中から"おいしい"派遣の仕事が入り、いわば「ダブルブッキング」の状態になっていたということもわかった。それではあまりに態度が悪いので注意をすると、彼女(自称SOHO)はこれまた開き直ってこんなことを言い出した。
「私を見て、使うか使わないかを決めるのはそちらの責任。私ではダメだと見なして、約束の半分以下の原稿しか発注しなかった。ならそれ以降、私は関知しないことでしょう」
自称SOHOさん、そうじゃないんじゃない? 今回の場合、この人がきちんとその仕事を完遂することが所期の約束だった。それができないだけでも、こちらは大変な迷惑がかかっているのだ。何より、自分が約束を完遂できなかったことを、この人はどう考えているのだろう。この人の理屈では、泥棒が何かを盗る前に被害者に110番
されたところで、「あなたが110番して被害が出なかったんだからそれでいいでしょう」と、うそぶくようなものではないか。
後から割のいい仕事が入ったからと言って、前の仕事をなおざりにしていいという道理はない。我々でも、安い仕事が決まった後に、より稿料の高い仕事が入ることがある。だが、道義的に、たとえ「おいしい仕事」が来ても、すでに決まっている仕事を優先するのは我々なら当たり前と考える。自分にとっておいしいものだけ「いいとこ取り」の仕事をしていたら、クライアントとの信頼関係を築くことができなくなるからだ。もし、どうしても断れない事情があって、後からきた仕事を受けるのであれば、先の仕事先にはちゃんと事情を話して判断を仰ぐのが常識である。
この女性(自称SOHO)がそういう非常識なことをできるのは、そのときだけ効率よく稼げればいい、という腰掛け根性で仕事をしているからであるとしか考えられない。そこには、「私には旦那という稼ぎ手がいるから、しょせん本気で働かなくていい」という逃げ道があるのだろう。こういう「SOHO」が好き勝手なことをするたびに、
主婦というだけで「どうせ自分本位の小遣い稼ぎだろう」と思われて信用されにくくなる風潮ができてしまうのだ。
どんな価値観、ライフプランをもつかはもちろん各人の自由だ。しかし、ビジネス上の信義だけは守ってもらえないものだろうか。ちがいますか、自称SOHOさん。
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